昔、父はウグイスを飼っていた。普通のウグイスは「ホーホケキョ」と鳴くが、このウグイスは「ホーホケキョ」に加えて「ホーホケキーヨ」と鳴く。
営業中、ハサミの「チョキチョキ」という音と共に、「ホーホケキョ、ケキョケキョ、ホーホケキーヨ」と、ウグイスの鳴き声が聞こえていた。
ある時、御客が「用事を思い出したので悪いけど少し早くやってくれ」と言った。私はハサミを速く動かした。「チョキチョキチョキ」。暫くしたら父が「チョキチョキチョキチョキ」とやりだした。私も負けずに「チョキチョキチョキチョキチョキ」とやった。そしたら父が「チョキチョキチョキチョキチョキチョキ」とやりだした。二人で競争しだしたのである。
体力は私の方が遙かにある。私の勝ちに決まっている。私は父に遠慮してペースを落とした。それから何秒経ったであろうか。父が「あっ」と言い、さかんに御客に謝っている。耳を切ったのである。父はショックで寝込んでしまった。ウグイスは我関せずで、相変わらず、「ホーホケキョ、ケキョケキョ、ホーホケキーヨ」と鳴いていた。
暫くして、先ほど耳を切られた御客がスイカを持って現れた。スタスタと奥の座敷へ行った。寝ている父に「マスター、大したことないんだからスイカでも食べて元気を出して」と励ましてくれた。暫くして父は元気を取り戻した。
「チョキチョキ」、「ホーホケキョ、ケキョケキョ、ホーホケキーヨ」、「チョキチョキ」
昔は今と違い野鳥が各家庭で自由に飼えた。これはそんな時代の話である。