第5話 リポビタンDと用心棒

先生は私に、支店勤務の半年間以外は毎日々、三年間続けて、リポビタンDを「1本だけ」近くの薬局へ、買いに行かせたのだ。この薬局は小さな店で、繁華街の中にあるせいか、二日酔いの薬、酔い防止の薬やコンドームは箱無しで中身だけが、それぞれが大量に陳列してあった。そこは最初、初老の経営者と奥さんらしき人がいたが、途中、奥さんらしき人と大学を卒業した位の若い娘とが交代した。この若い娘は経営者の娘か近い親族と思われる。時間によっては娘だけの時もあった。

一度、二日酔いになった時に、この薬局へ行った。二人の手際の良い事、酔い止めの錠剤とアンプルを10秒も経たない内に準備してくれ、気が付いたら、言われるままに呑んだ錠剤をアンプルで流し込んでいた。瞬く間に殆ど治った。後は、大量の水を飲んでくれと言われた。代金を娘に払い、店に戻って水を飲んだ。治った。

私は思った。保母と結婚すると、面倒を看られすぎ息が詰まると聞いた事があるが、薬局の娘と結婚したら一晩中・・・・にされるのか?とにかく薬の力は強烈だ。

夜、閉店後、何時もの様にリポビタンDを買いに行く途中、同級生に偶然出会った。なんでも近くのキャバレーの用心棒をしているそうである。しばし話し、「お互いに頑張ろう」と、言って分かれた。

私は当時若かったので用心棒の意味が分からなかったが、最近多少分かってきた。キャバレーへ遊びに行けば当然飲む。御客は相当酔っても代金は間違いなく払う。何故なら、頭の隅に「払はないと大変な事になる。という強い恐怖心があるからである」もし「この恐怖心がなかったら」キャバレーで飲んだ御客は、アルコールで気が大きくなり、真面目な人も不真面目な人も関係なく、ほぼ全員が代金を踏み倒すであろう。御客全員が違法行為をする集団と化すのである。こうなったら店としては困る。したがって、そうならない為に、御客の犯罪を抑止する為に、怖い用心棒はキャバレーには絶対に必要なのである。

先生にとってリポビタンDは、用心棒なのだろう。

私とすれば2ダース位まとめて買えばと思うのだが、弟子としては言えないのである。私は、また今夜も薬局へ行き「若い娘さんに、リポビタンDを1本下さいと言わなくてはならない」のである。