当時は仕事を一生懸命することに夢中で経営全般のことは考えなかった。もっとも私には元々経営全般を考える能力はない。そのことで最近ふと思い出した事がある。それは待つ事を嫌う御客が年々増えていた当時、突然わざわざ店が混む時に来店する御客が増えたことである。順番がきてお呼びしてもあまり楽しい顔をしない。その原因が、今分かった。
今でこそクーラーの普及で夏バテという言葉が死語になったが、当時クーラーの無い頃は夏バテで衰弱して入院する人もいた。特に他所から引っ越してきた人に多かった。名古屋の夏はひじょうに暑い。蒸し暑いのである。地元の人は生まれた時から慣れているので何ともないが、途中引っ越して来た人は大変なのである。鹿児島から出稼ぎで来た御客はあまりの暑さで夏バテになり食欲が無くなり、このままでは死んでしまうと言い、一週間で帰ってしまった。また、沖縄から引っ越して来た若い御客は、沖縄より名古屋のほうが暑いと言っていた。
この頃近くに大きな県営住宅が出来た。この住宅は今と違い風呂、クーラーが無かった(正確に言えばクーラーを取り付けるだけの電気の容量が元々無かった。また、仮にあったとしても当時のクーラーはあまりにも高額で、また、あまり効かなかった)。聞いた話では、九州から引っ越してきた人が多いそうである。名古屋の暑さに慣れていない人達である。したがって殆どの人が名古屋の猛烈な暑さで熱射病になりかかっていたのだろう。それで兎に角涼を求めたのである。
この頃は古い機能の、したがってあまり効かないクーラーを使っている理容店が多かった。それに比べ私の店のクーラーは最新式で寒いほど良く効いたのである。それで暑さに耐えきれない人達が涼を求めて来店したのであろう。