第18話 殆どの人が独立出来ない現実

多くの従業員が入店し、退店していった。私の居た3年間に半分以上の人が変わった。見習いは人間関係の失敗で辞める人が殆どだった。10代の男女である。なかなか難しかったと思う。新しい職人は店に初めてくる御客を担当するのである。そしてその職人のファンが増えれば増えるほど給料と店での地位が上がるのであるが、ファンを増やすことの出来ない人が多かった。

元々低生産性の職業である。いくらファンをつけても従業員では妻子を養うだけの給料はもらえない。経営者が出そうとしても出せないのである。努力して独立しても食べていくのが精一杯で、どんなに繁盛しても一生の間に自分の家を持てる人は僅かである。昔からそういう仕事なのだ。

店の先輩達で独立出来た人はほんの一握りである。A先輩は先生の妹と結婚して、その妹が相続した金で店を出し、B先輩は、最初借家でやり始めたが、昔は貧乏だった奥さんの実家がたまたま土地成金で金持ちになったので、家を建てることが出来たのである。純粋に理容の仕事で自分の家を持てた人は一人もいないだろう。大勢の先輩の中で私が知っている独立出来た先輩はこの二人だけである。

理容学校を退学した人達、見習いで理容店へ入り辞めて他業種に入った人達、当時から今までの経済情勢を振り返ると、その人達のほうが収入は遙かに上だったと思う。