夜、閉店後9時から11時まで講習会が週に2度あった。主に技術の講習で、一度だけ接客の講習だった。
先生が「理容業は接客業なので話すことも練習しなくてはいけない。皆、一人ずつ何か話せ」と言った。皆、何を話していいのか困り「もごもご」としていた。私の番が来た。私も困り、咄嗟に昔読んだ本の内容を話した「ある保険会社が全国からベスト10の優秀な営業マンを表彰した。その中には、上手く話せない人が二人、体の調子の悪い人が二人いた」という話をした。
先生が「うむむ」と言った。私は別に、話すことに拘らないで、一番大事なのは御客に対して、誠意を持って仕事をすることである。・・・・・そこまで考えて話したわけではないのだ。先生が何か話せと言ったので、困って思い出すままに適当に話しただけなのだ。しかしこの態度は先生には誤解された。今思い起こしても当然だと思う。
先生は話した。「私は小学生の頃、成績はクラスで中くらいであった。ところが(戦争末期)疎開で田舎の小学校へ行ったら途端に成績は上位になった」先生が言いたいことは、お前たちの中には多少色々なことを知っているものも居るが、あくまで、周りの人との比較の問題であって、大した能力でもないのであるから、今後も精進しなくてはいけない、という意味だと思った。そのとおりだと思った。