いつの頃か初心を忘れ、いつしか新しい感覚、技術の導入を忘れていた。この状態が後1年も続いていたら、突然、店は原因不明のまま暇になっていただろう。今思い起こすと危険な時期であった。この頃、全国のへアースタイルに大きな変化が起きる事を、私は気が付いていなかったのである。ただ私は運がよかった。それは、この頃妻がチェッカ-ズの熱烈なファンになったからである。
毎週見ている「夜のヒットスタジオ」というテレビの歌番組に、初めてチェッカ-ズが登場して以来、妻は熱烈なチェッカ-ズファンになった。台所兼食堂兼居間にテレビが置いてある。妻が見れば自動的に私も見ることになる。それまでにない斬新なヘア-スタイルだ。どうすればこのヘア-スタイルが出来るのか?私は猛烈に、このセンスを取り入れた。勉強した。おそらく他店より早かったと思う。
私が若い頃、ビートルズが来日して、若い男は皆、肩までのロングヘアーになった。女性はミニスカートになった。この傾向は数年続いた。その傾向の後半頃か、子供向けの漫画雑誌やアニメの登場人物のヘアースタイルは、反対のショートヘアーが多かった。その漫画雑誌やアニメを見て育った子供達が大きくなった頃、突如、チェッカ-ズが出現したのである。このヘヤースタイルは当時の若い男に大きな影響を与えた。昔、ビートルズでロングヘアー、当時のチェッカ-ズでショートヘアーということである。今、振り返ると私は運良くこの大きな流れに乗れたのだ。
子供向けの漫画雑誌やアニメに「サッカー」「釣り」「料理人の修行話」などが流行ると、その子供たちが大きくなった頃、「サッカー、釣り、料理関係」が流行るようなものだ。前述したように、子供の頃、漫画雑誌やアニメに出てくる登場人物のショートスタイルのイメージを潜在意識に留めた子供が大人になった頃、チェッカ-ズが出現したのである。
チェッカ-ズはあっという間に、全国の若い女性がファンになった。これは数年続いた。したがって自然に全国の若い男性のヘアースタイルが、チェッカ-ズ風になった。当たり前だが男と女はお互いに影響し合うのである。特に、若い人達は。
不思議なことに若い御客が増えると年配の御客も増えた。店はますます忙しくなった。尤も「私のカットは普通だが妻のセットが上手い」と、言っていた御客がいたが。