第3話 高利貸しのKさん

午前10時頃だと思う。Kさんが店に寄り、主任に「これから貸し金回収に行くのだが、なかなか返さないので困っている」と、話していた。帰り際に主任は「頑張って」と、言った。Kさんが調髪に来店する時以外で、店に寄ったのは初めての事である。普段でも、遊びに来る御客は一人もいない。この日は、非常に珍しい日になった。

Kさんは高利貸し(このころは未だサラ金という言葉はなかった)で、先代からの御客で70歳位であった。3週間に1度位の割合で主任が調髪をしていた。寡黙な人でこの1年間で話した事といえば、主任が調髪をしている時の「先代(2代目)は上手かった。くるりと椅子の周りを回ると頭が刈れていた。それに比べると、今の代(3代目)はまだまだである」と、私が襟を剃るとき「あなた達の剃刀は武士の刀と同じである」ただ、それだけだった。

昼過ぎ、Kさんの店の番頭さんが来店した。「悪いけど急いでやってくれ」と言った。主任は調髪をしながら話していた。突然主任の動きが止まり、店内がざわめいた。店内は十分に暖房が効かしてあるのにも係わらず、急に凍りつく寒さになった。

番頭さんは「K社長は昨日会社で倒れ、救急車で病院へ行き、治療の甲斐なく今朝亡くなった。葬式の準備などで忙しい。最近は金があってもなかなか返さない客が増えて困っている」というような話をしていた。

この時、現世では在りえない事が起こった。亡きKさんが突然番頭さんに憑依したのだ。瞬時に番頭さんの声がKさんの声に変わった。

「金返せー金返せー金返せー金返せー金返せー」

Kさんが怒っているのだ。こんなKさん初めて見た。