明治生まれの亡父は小学校4~5年から働いた。たまにテレビ等でタイやベトナムの一般大衆の生活を写すが、雰囲気は似ていると思う。時代は下り、私より5~6年年上の人達の進学率は僅かで、殆どの人が中学を卒業したら就職をした。さらに時代が下り、私のクラスでは7割が進学、3割が就職であった。またさらに時代が下り、進学率はさらに上がった。国民の所得が増えるに比例して進学率が増えたのである。所得が増えれば誰しも自分の子供を進学させたいと思うのは自然の情である。以下の話は進学率の上がったそんな時代の話である。
この頃パーマが流行った。この流行は数年続いた。一部の高校以外はパーマをすることは禁止であった。この高校生のパーマの是非については一時期(マスコミが取り上げている間中)社会問題化していた。その頃他店で偶然見たのであるが、その店には「何処が作ったポスターか知らないが、非行化防止の為に青少年や高校生のパーマはやめよう」というような内容のポスターが貼ってあった。
私は道徳の先生ではないので、御客の注文があればどんどんパーマをやった。夏休みになるとパーマをやる高校生は多くいた。そして、学校が始まる頃、薬液を付けてパーマを取るのだ(このやり方は私が教え奨めた)。お断りしておくが、当店でパーマをやった高校生で非行をした人は一人もいない。皆さん、全員、今では立派な社会人、良いお父さんになっている。早い人は孫がいる。
当時、年配の先生の殆どは若いころ「突撃」と叫び、戦後は平和と叫んだ人達だ。若い先生の殆どは、数年前、親やそれまでの社会の認めるヘアースタイルに反抗して、髪の毛を肩より下まで伸ばせるだけ伸ばし、先生になる前にそれまでの超ロングヘアーをあっさりと切って短髪になり、今は熱血先生になり生徒を指導しているのである。
私は、御客の注文は原則受け入れた。したがって高校生でもパーマを注文されれば施術した(私から勧めることは決してしなかった)。ある時、「パーマは学校で禁止されているのに何故施術した」と、父親が怒って来店した。私は答えた「高校生かどうか、分からない」父親は「そりゃそうだ」と、あっさり帰った。
若い人には、就職している人、そうでない人、専門学校生、高校生、大学生、色々である。誰がどれに該当するか分からない。仕事柄、一人一人聞くわけにもいかない。役所なら「証明の書類を提出して」と、言っていられる。それを嫌い本人が書類を提出しなくても、まったく役所は困らない。それでも役人は良い生活が出来る。何も困らない。しかし、私がそんなことをしたら御客は来なくなる。何故なら私の仕事は市場経済の中にあるからである。私の職業には既得権は全くないのである。したがってそんなことをしたら、あっと言う間に御客が去る。これでは困るのである。
何故、私がこの分類に神経質になるのか?それには理由がある。ある時、同業者の話し合いで、親の経済的負担が大変だという理由で、大人料金より安い高校生料金を新たに作った(勿論、採用するかどうかは各店の自由であるが)。それで、私は若い御客に「高校生?」と聞いたら、しょぼんとして「専門学校生」と言ったのである。私はしまったと思った。もし、大学生に「高校生?」と、聞けば、馬鹿にされたと思い、怒るだろう。色々考え、私の店は今までどおり、中学を卒業したら、大人と同じ料金にした。今の時代ではこれでは絶対に商売にならないが、当時はこれでも御客は来た。高校生ということで料金を下げても、接客のミスでプライドを傷つけ、逆に若い御客が減った店もあったかもしれない。
余談だが、このことで高校時代の友人の話を思い出した。この友人は「俺は頭を下げる仕事はしない」と、言っていた。当時の私は、この言葉の意味が分からなかったが、この年になってようやく分かったような気がする。