この店のメニューの一つにオイルシャンプーがあった。これは発毛、フケ止めに効果があったと思う。程好く暖めたオリーブ油に硫黄を適量入れ、頭皮に付け、赤外線を適当な時間照射し、マッサージを行い、あと普通にシャンプーをするのである。これによって頭皮の血行をよくし、発毛を促すのである。この赤外線照射は、薬の副作用等で脱毛した患者の発毛を促す為に、当時、病院でも盛んに行われていた。 続きを読む
第3話 高利貸しのKさん
午前10時頃だと思う。Kさんが店に寄り、主任に「これから貸し金回収に行くのだが、なかなか返さないので困っている」と、話していた。帰り際に主任は「頑張って」と、言った。Kさんが調髪に来店する時以外で、店に寄ったのは初めての事である。普段でも、遊びに来る御客は一人もいない。この日は、非常に珍しい日になった。 続きを読む
第2話 キャバレー
調髪が終わったら雨が降っていた。傘を差し、お送りした。途中、御客は私に「先ほど調髪した担当者は技術が下手である」と私に同意を求めた。私も他の技術者に比べて明らかに下手だと思ったが、御客にどう言っていいかわからなかったので考えていた。しばらくして御客は「先輩の悪口を言わないあなたはいい人である」と言い、実に親切でやさしい顔をした。 続きを読む
第1話 髪が生えた
先生(私の親方)は、中年にしては髪が薄かった。特に、前頭部の毛が全く無く、しっかりと禿げ上がっていた。本人は威厳を持って職人や弟子に接していた。
先生はある日、全ての従業員を集めて、悲痛な顔で、「これからの理容業は、頭髪の刈込み、顔そり、シャンプーだけではだめだ。それに付随する化粧品、特に毛生え薬も売らなくてはならない」と訓示した。 続きを読む